ブラジル対イタリア


1950年のワールドカップ以来64年ぶりのワールドカップ開催を控えたブラジルはすでにワールドカップの雰囲気を感じさせるものだった。
2013年コンフェデレーションズカップグループリーグ最終戦ブラジル対イタリアの話である。
選手入場直前に会場に響き渡ったのはブラジルコール、入場後の国歌斉唱では演奏が終了したにも関わらずスタジアムの観客の合唱は止まなかった。
重要な国際試合とはいえ滅多に目にしない光景だった。
試合は開始直後会場内のテンションに押されたブラジルチームは猛攻を仕掛ける。前線からのプレス、素早いパス回し、鋭いシュート。
しかしそこに立ちはだかったのはイタリアのゴールキーパー名手ブッフォン
開始10分までに猛攻しかけたブラジルであったが、序盤のハイテンションの影響からか、徐々にそのペースが下がって行く。
ブラジルの激しいプレスによってイタリアは攻撃は皆無ではあったが、ブラジルの決定的チャンスはそれほど増えては行かなかった。
ブラジルの緩慢さと鋭さが交じった攻撃とイタリアの意地とも呼べる守備によって、試合は大きく動かなくなる。
このまま後半を迎えるかと思えた前半45分、ネイマールフリーキックからフレッジのヘディング、それをブッフォンがセーブをするがダンチがこぼれ球に反応した。
ゴール!
華麗なテクニックを得意とするブラジルにしては意外な先制点だった。
だがその一方で試合の展開を考えれば当然とも言える先制点でもあった。
そのまま前半終了。
イタリアにはやはり前半を踏ん張りきれなかった、悔しさがにじみ出る。
後半開始。
立ち上がりすぐにイタリアが同点ゴールを決める。
ブッフォンパントキック、競り合いからこぼれたボールをバロテッリがヒールで驚くべきパス送る、抜けだしたジャッケリーニが受けて見事にゴールに突き刺した。
前半時折攻撃を見せたもののゴールの匂いを全く感じさせなかったイタリアが、彼らのイメージ通りのゴールを決めた。
静まり返るスタジアム。意気消沈といったブラジルイレブン。
しかしそれを救ったのはここまでメキシコ戦に比べ精細を欠くエース、ネイマールだった。
左サイドからカットインしたネイマールはファールを誘い、絶好の位置でフリーキックを得る。
ここからは若きエース ネイマールとベテランの名手ブッフォンとの勝負である。
通常ペナルティーエリア付近でのフリーキックは壁の上を超えゴールキーパーのいない場所に蹴るのが定石だ。
しかしネイマールはあえてブッフォンのいる方に蹴り、逆を突いた。
ボールは決められたコースが有るかの様にゴールに入っていった。
ゴール!
会場は割れんばかりの歓声。試合前の期待はここで爆発したのであった。
ゴールの余韻が残る中で、立て続けに攻撃をしかけるブラジル。そしてすぐに追加点が生まれた。
フレッジの見事なトラップからエリア内に持ち込みシュート。ネイマールほどの華やかさはないが素晴らしいゴールだった。
スタジアムは歓声とともに拍手が聞こえるような、勝利を確信した雰囲気になった。
その雰囲気はスタジアム中に広がりスコラーリ監督にも伝わった。
ネイマールの交代。
中2日で疲れがたまるエースを温存という判断だったのだろう。
しかしこの交代はスタジアムの雰囲気とも相まってブラジルイレブンに向けた誤ったメッセージとなってしまう。
ネイマール交代直後、70分コーナーキックからの混乱の中からキエッリーニがシュート。
ゴール!
またも1点差となる。
その直後からイタリアが息を吹き返し、猛然とゴールに迫る。
脅かされるゴールにブラジルはもう一度集中力を高めようとするが、イタリアの攻撃は続く。
80分イタリアはコーナーキックを得る。キッカーはカンドレーヴァ
センタリングは鋭く弧を描きながら、フリーのマッジョに向かう。
マッジョの強烈なヘディング。ゴールか一瞬そう思われた瞬間。
「カーン」と大きな金属音とともにボールは大きく跳ね返りペナルティエリアの外まで飛んでいった。バーにあたりゴールならず。
会場には大きなため息。
その後一進一退の攻防となる。
87分、ようやく試合の決まる瞬間がやってきた。
マルセロが放ったシュートをブッフォンが弾きフレッジがゴール。4対2となる。
そのまま試合終了。
この試合の結果から、ブラジルは開催国としてまたサッカー王国として面目を保つグループリーグ首位通過となった。
しかしスコラーリ監督は肝を冷やした事であろう。
もしマッジョのヘディングがバーに阻まれずに決まっていれば、試合後のスタジアムの雰囲気とスコラーリ監督の評価は正反対となっていた可能性も十分にあった。
スポーツの世界では常に言われてきた言葉、またスコラーリ監督自身も何度も聞いてきた言葉をもう一度監督自身反芻しただろう。
「スポーツは最後まで分からない」と。